「NISAがあるのに、企業型DCは必要?」に、会社としてどう答えるか

税制比較だけでは伝わらない、“会社が制度を持つ意味”

企業型DCの導入を検討している企業の方とお話ししていると、最近、以前より聞かれるようになったことがあります。

「NISAがこれだけ広がっているのに、会社として企業型DCまで用意する必要があるのでしょうか。」

この問いは、いま多くの企業が感じている迷いを、そのまま表しているように思います。

ひと昔前であれば、資産形成というと、会社の制度としてどう整えるかが先に話題になりやすい面がありました。けれど今は、個人で始める資産形成がずっと身近になっています。NISAの広がりもあって、「資産形成は個人でやるもの」という感覚は、以前より確実に強くなってきました。

そうなると企業としては、当然立ち止まります。

社員が自分で資産形成できる時代に、会社があえて企業型DCを持つ意味はどこにあるのか、と。

一方で、企業型DCそのものも、以前のように一部の限られた企業だけの制度ではなくなってきました。ただし、その広がり方は一様ではありません。導入が進んでいる企業がある一方で、とくに中小企業では「必要性は感じるが、まだ踏み切れていない」という声も少なくありません。

だからこそ今、問われているのは、制度が広がっているかどうか以上に、「会社としてこの制度をどう位置づけるのか」なのだと思います。

この問いに対して、税制の違いだけで答えようとすると、不十分です。

会社が企業型DCを持つ意味は、単なる“お得さ”だけでは語りきれないからです。


NISAが広がるほど、企業型DCの意味は説明しづらくなる

NISAは、わかりやすい制度です。

自分で始める。
自分で選ぶ。
自分でやめることもできる。

つまり、個人の意思で動かしやすい制度です。

だから、資産形成に関心のある人にとっては、気軽に始めやすい。実際、社員の中でも「まずはNISAから」と考える人は増えているはずです。会社としても、そうした空気を感じる場面は少なくないでしょう。

ここで企業型DCを説明しようとすると、どうしても制度比較に寄りがちです。

NISAはこう。
企業型DCはこう。
税制はこう違う。
引き出せる時期はこう違う。

もちろん、それ自体は必要な説明です。

けれど、それだけでは社員には届きにくいことがあります。

なぜなら、社員が本当に知りたいのは、制度の比較表ではなく、「それで、自分はどう考えればいいの?」だからです。

会社としても、本当に考えたいのは「NISAより得かどうか」だけではないはずです。


企業型DCは、NISAの“代わり”ではない

ここは、少し丁寧に整理したいところです。

NISAは、個人が自分の意思で使う制度です。

それに対して企業型DCは、会社が制度として用意し、社員の資産形成を仕組みとして支える制度です。

似ているようで、ここは大きく違います。

NISAは、始めようと思った人が始めます。

けれど企業型DCは、会社が制度として持つことで、資産形成を「関心の高い人だけのもの」にしにくくします。

自分で調べる人だけが動く。
関心の高い人だけが得をする。
余裕のある人だけが続けられる。

資産形成の制度は、放っておくと、どうしてもそうなりやすい面があります。

会社が企業型DCを持つ意味は、その差を少しでも小さくし、社員の老後の不安をやわらげることにあるのではないでしょうか。

もちろん、企業型DCがあればすべて解決する、というほど単純ではありません。

けれど少なくとも、会社が制度として持つことで、資産形成は“完全に個人任せの話”ではなくなります。

ここは、NISAにはない企業型DCの重要な役割だと思います。


会社が制度を持つ意味は、「継続しやすさ」をつくること

実務の現場を見ていると、資産形成は「知っているかどうか」だけで差がつくわけではないと感じます。むしろ大きいのは、続けやすいかどうかです。

始めるときは、誰でも少し迷います。
続けるときには、なおさら迷います。

手取りとの兼ね合いもありますし、生活の変化もあります。
相場が下がれば、不安にもなります。

NISAは、自分で始め、自分で続ける制度です。

それは自由度の高さでもありますが、裏を返せば、やめるのも簡単です。

ここがNISAの難点でもあります。

一方で企業型DCは、会社の制度設計や案内、継続的な情報提供を通じて、「続けること」を支えやすい仕組みです。

ここを、単なる税制比較の中に埋もれさせてしまうのは、少し惜しいと思うのです。

会社が制度を持つ意味は、社員の代わりに投資判断をすることではありません。

社員の人生を管理することでもありません。

そうではなくて、長い時間をかけて育てる資産形成を、続けやすい形にしておくこと。

その土台を会社として持つことなのだと思います。


「制度はある」のに、「意味が伝わっていない」ことも少なくない

ここで、もう一つ見落としたくないことがあります。

企業型DCの加入者だからといって、その意味が十分に伝わっているとは限らない、ということです。

実務の現場では、こんなことが起こります。

人事は「説明している」と言います。
社員は「聞いたことはあるけれど、自分にどう関係するのかはよくわからない」と言います。

このズレは、誰かが怠けているから起きるわけではありません。

制度が、自分の生活や将来とどうつながるのかまで伝わっていないからです。

会社側は、制度の仕組みを説明します。

けれど社員が知りたいのは、まず「自分に何が関係するのか」です。

毎月の給与や手取りと、どう関係するのか。
将来の安心に向けて、今どんな意味があるのか。
自分は何を考え、何をすればいいのか。

ここが見えないままでは、制度は理解されません。

そして理解されない制度は、使われにくいままです。

だから、NISAが広がる時代に企業型DCを持つ意味を考えるとき、「どちらが有利か」だけでなく、「会社として、その制度を社員にどう位置づけて伝えるのか」まで考える必要があるのだと思います。


会社が伝えるべきなのは、「どちらが得か」ではなく「なぜ制度を持つのか」

ここまで来ると、企業が社員に伝えるべきことも、少し見えてきます。

NISAと企業型DCは、どちらか一方を選ぶ話ではありません。

けれど社員は、どうしても比較します。

だからこそ会社としては、制度の違いを説明するだけでなく、企業型DCをなぜ持つのか、その意味を自社の言葉で語れることが大切です。

たとえば、

社員の将来不安に、会社としてまったく無関係ではいたくない。
退職金制度や福利厚生を、給与とは別の形でも整えたい。
短期的な手取りだけではなく、長期的な安心も支えたい。

そうした考えがあるなら、それが企業型DCを持つ理由になります。

逆に、そこが曖昧なままでは、制度はあっても“置いてあるだけ”になりやすい。

NISAがある時代ほど、その差ははっきり出てくるように思います。

いまは、資産形成をすること自体は、以前よりずっと身近になりました。

けれど、身近になったからこそ、会社が制度を持つ意味もまた、問い直されているのではないでしょうか。


おわりに

「NISAがあるのに、企業型DCは必要なのか。」

この問いに、制度比較だけで答えるのは難しいと思います。

なぜなら、会社が企業型DCを持つ意味は、非課税の仕組みだけではなく、会社として、社員の将来にどう向き合うのかという姿勢の中にあるからです。

自分で動ける人は、NISAでも資産形成を進めていくでしょう。

けれど、会社が制度として企業型DCを持つことには、「自分で動ける人だけの制度にしない」という意味があります。

それは、地味で目立ちにくい価値かもしれません。

けれど、会社が制度を持つ意味としては、とても大きいものではないでしょうか。

NISAが広がる時代だからこそ、企業型DCの意味は薄れるのではなく、むしろ問い直されます。その問いと向き合う中に、御社の制度設計の方向性が見えてくるように思います。