企業型DCとNISA、どっちがいい? ~「NISAで十分」と考える前に知っておきたいこと~

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企業型DCの導入を検討している企業の方や、個人のお客様からのご相談を受けていると、最近よく聞かれる質問があります。

「NISAをやっていれば、企業型DCやiDeCoは必要ないのではないですか。」

この疑問は、とても自然なものだと思います。

実際、NISAはここ数年で一気に身近な制度になりました。すでにNISAを始めている方も増えていますし、「資産形成といえば、まずNISA」と考える人も少なくありません。

だからこそ、経営者や人事担当者が、

「社員も自分でNISAを使えばいいのではないか」

「会社として、わざわざ企業型DCまで用意する必要があるのか」

と考えるのも無理はありません。

個人の立場でも同じです。

「NISAで投資信託を積み立てているから、それで十分ではないか」

と感じる方は多いと思います。

ただ、ここで大切なのは、どちらが優れているかを決めることではありません。

NISAも、企業型DCも、iDeCoも、どれも良い制度です。

問題は、どれか一つを選ぶことではなく、それぞれの特徴を理解して、どう使い分けるかです。

NISAは、自由度の高い制度です。

企業型DCやiDeCoは、老後資産形成を長く続けやすい制度です。

この違いを見落とすと、「NISAで十分」という一言で、老後資産形成の大事な選択肢を手放してしまうかもしれません。


NISAは良い制度、ただ、過信しすぎないことが大切

まず前提として、NISAはとても良い制度です。

2024年からのNISAでは、非課税保有期間が無期限となり、制度も恒久化されました。つみたて投資枠と成長投資枠の併用もでき、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は最大1,800万円です。

これは、長期的な資産形成に取り組みやすい制度です。

しかも、NISAは自由度が高い。

始めるのも自由。

商品を選ぶのも自由。

売却するのも自由。

この自由度は、大きな魅力です。

急にお金が必要になったときに売却できる。

ライフイベントに合わせて使える。

自分のペースで続けられる。

これはNISAの良さです。

ただ、自由であることは、同時に難しさでもあります。

いつでも売れるということは、値上がりしたときに売りたくなるということでもあります。相場が下がったときに、不安になってやめたくなるということでもあります。

わたしたちの感情を侮ってはいけません。

制度として長期投資に向いていることと、実際に長期で持ち続けられることは、同じではありません。

ここは、意外と見落とされやすいところです。


長期投資で大事なのは、商品選びだけではない

資産形成というと、どうしても「何を買えばいいのか」に目が向きます。

どの投資信託がよいのか。

米国株なのか、全世界株なのか。

株式と債券の比率はどうするのか。

もちろん、商品選びは大切です。

ただ、長期投資で本当に大切なのは、良い商品を選ぶことだけではありません。

途中でやめないこと。

これが、とても大切です。

複利の効果は、時間を味方につけて初めて働きます。

雪だるまを転がすように、最初は小さくても、時間をかけることで少しずつ大きくなっていく。

これが長期投資の基本的な考え方です。

ところが、途中で何度も売ったり買ったりを繰り返すと、この時間の力を活かしにくくなります。

値上がりしたから売る。

少し下がったから不安になって売る。

また相場が良くなってきたから買う。

こうした行動がすべて悪いわけではありません。

お金を使う目的があるなら、売却することも必要です。

ただ、老後資産形成という目的で考えるなら、短期の値動きに反応することは、必ずしも良い結果につながるとは限りません。

日本証券業協会の2025年調査でも、株式の投資方針として「概ね長期保有だが、ある程度値上がり益があれば売却する」と答えた人が49.0%と最も多くなっています。

この数字をどう見るかは人によって違うと思います。

ただ、少なくとも「長期投資が大事」と分かっていても、実際には途中で売りたくなる人が少なくないことは見えてきます。


「60歳まで引き出せない」は、本当に“デメリット”なのか

ここで、企業型DCやiDeCoの特徴が出てきます。

企業型DCもiDeCoも、確定拠出年金という老後資産形成の制度です。

掛金とその運用益の合計額をもとに、将来の給付額が決まります。

大きく分けると、会社が制度として用意し、原則として会社が掛金を拠出するものが企業型DC。

個人が自分で申し込み、自分で掛金を出して運用するものがiDeCoです。

企業型DCやiDeCoは、原則として60歳以降に受け取る制度です。

この「原則60歳まで引き出せない」という特徴は、よくデメリットとして語られます。

たしかに、自由に使えないという意味ではデメリットです。

急にお金が必要になったときに、NISAのように売却して使うことはできません。

住宅資金や教育資金、生活防衛資金のように、途中で使う可能性があるお金には向きません。

ここは正直に伝える必要があります。

ただ、老後資産形成という目的に限って考えると、この「引き出せない」という特徴は、見方が変わります。

途中で売れない。

途中で使えない。

だからこそ、続けやすい。

これは、金融リテラシーが高く、自分で長期投資を続けられる人には、あまり必要のない仕組みかもしれません。

でも、全員がそうではありません。

値上がりしたら売りたくなる。

下がったら不安になる。

何か別の支出があると、つい使ってしまう。

そういう人にとっては、自由に使えないことが、むしろ老後資産形成を守る仕組みになります。

ここは、企業型DCやiDeCoの大きな価値だと思います。


企業型DCとiDeCoは、似ているようで少し違う

企業型DCとiDeCoは、どちらも確定拠出年金です。

どちらも、老後資産形成を目的とした制度です。

そして、どちらも運用益は運用中非課税で、受け取るときには年金なら公的年金等控除、一時金なら退職所得控除の対象になります。

では、何が違うのでしょうか。

大きな違いは、会社の制度として用意されているか、個人が自分で加入するかです。

企業型DCは、会社が制度として導入し、原則として会社が掛金を拠出します。

一方、iDeCoは、個人が自分で申し込み、自分で掛金を出し、自分で運用していく制度です。

税制面では、iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象になります。

企業型DCでも、社員が自分で掛金を上乗せするマッチング拠出を行う場合、その加入者掛金は全額所得控除の対象です。つまり、本人が掛金を出す部分だけを比べれば、所得控除という考え方は共通しています。

一方で、企業型DCには、iDeCoにはない大きな特徴があります。

それは、会社が掛金を出してくれることです。

社員から見れば、自分の手取りから掛金を出すiDeCoとは違い、会社が退職金制度や福利厚生として老後資産形成の土台をつくってくれる。ここは大きな違いです。

もう一つ、見落とされやすいのが手数料です。

iDeCoは個人で加入する制度なので、加入時や掛金納付時などに手数料がかかります。国民年金基金連合会の手数料として、新規加入・移換時の手数料や、掛金納付の都度かかる手数料があります。さらに、運営管理機関や事務委託先金融機関の手数料は機関によって異なります。

一方、企業型DCは会社が制度として導入するため、社員が個人で金融機関を選び、iDeCoのように加入時・掛金納付時の手数料を意識しながら始める制度とは性格が違います。制度運営にかかる費用は企業側が負担する設計が一般的です。

ただし、投資信託の信託報酬など、運用商品そのものにかかるコストは別に考える必要があります。

つまり企業型DCは、社員にとって「自分で調べて、自分で申し込み、自分で手数料を確認し、自分で続ける」制度ではありません。

会社が制度として用意し、社員がその中で老後資産形成を始めやすくする仕組みです。

ここに、企業が導入する意味があります。


制度を使いこなせている人は多くない

私自身、これまで多くのご相談を受けてきましたが、NISA、企業型DC、iDeCoの違いを最初から正確に理解し、目的別に使い分けられている方は、決して多くないと感じています。

むしろ、

「NISAをやっているから大丈夫」

「iDeCoと企業型DCは似たようなもの」

「60歳まで引き出せないなら不便」

という印象で止まっている方も少なくありません。

これは、個人の勉強不足だけの問題ではないと思います。

制度そのものが複雑なので、わかりにくいのは自然なことです。

だからこそ企業型DCは、単なる節税制度ではなく、社員が老後資産形成に入りやすく、続けやすくするための会社の仕組みとして考えることが大切です。

金融リテラシーの高い人であれば、NISAもiDeCoも自分で比較して使いこなせるかもしれません。

けれど、すべての社員がそうではありません。

ここを前提にすることが、経営者や人事担当者にとって大切です。


NISAは「自由に使えるお金」、DCは「老後のために残すお金」

初心者の方には、難しい制度比較よりも、まず目的で分けて考えるほうが分かりやすいと思います。

NISAは、自由度の高い資産形成に向いています。

将来の住宅資金、教育資金、少し先のライフイベント、あるいは老後資金の一部。目的に合わせて柔軟に使いやすい制度です。

一方で、企業型DCやiDeCoは、老後資産形成を長く続けることに向いています。

原則60歳まで引き出せないからこそ、途中で使ってしまいにくい。

長く積み立て、長く運用することを制度が後押ししてくれます。

つまり、

NISAは「自由に使えるお金」を育てる制度。

企業型DCやiDeCoは「老後のために残すお金」を育てる制度。

このように考えると、かなり整理しやすくなります。

どちらか一方を選ぶ必要はありません。

どちらも良い制度です。

ただ、役割が違うのです。


経営者や人事担当者が考えたいこと

では、企業としては何を考えればよいのでしょうか。

経営者の中には、

「社員が自分でNISAをやれば十分ではないか」

と感じる方もいると思います。

これも自然な考えです。

実際、金融リテラシーが高く、自分で学び、自分で積み立てを続けられる社員であれば、NISAだけでもしっかり資産形成できるかもしれません。

でも、すべての社員がそうでしょうか。

投資に関心がある社員。

何から始めればいいか分からない社員。

始めたけれど、値動きが怖くて続かない社員。

制度の違いがよく分からない社員。

職場には、いろいろな社員がいます。

だから企業が考えるべきなのは、

「NISAがあるから企業型DCはいらないか」

ではありません。

「社員は、自分だけで老後資産形成を続けられるのか」

ここだと思います。

企業型DCを導入する意義は、会社が社員の投資判断を代わりにすることではありません。

社員の人生を管理することでもありません。

そうではなく、老後に向けた資産形成を、社員が途中で投げ出しにくい形で続けられる環境を整えることです。

制度を用意する。

継続的に伝える。

必要な情報を届ける。

社員が「自分には関係ない」と思わないようにする。

ここに、会社が企業型DCを持つ意味があります。


おわりに

「企業型DCとNISA、どっちがいいのか」

この問いに、単純な答えはありません。

NISAも、企業型DCも、iDeCoも、それぞれ良い制度です。

大切なのは、どちらが上かを決めることではなく、目的に合わせて使い分けることです。

NISAは、自由度の高い資産形成に向いています。

企業型DCやiDeCoは、老後資産形成を長く続けることに向いています。

そして企業にとっては、社員が自分でNISAを使えるかどうかだけで判断するのではなく、社員が老後に向けた資産形成を長く続けられる環境を、会社としてどう整えるかが問われます。

「NISAがあるから企業型DCはいらない」

そう考える前に、一度立ち止まってみてもよいのではないでしょうか。

社員に自由な選択肢を渡すことも大切です。

同時に、老後まで続けられる仕組みを用意することも大切です。

その両方をどう整えるか。

そこに、これからの企業型DC導入の意味があるように思います。