社会保険の適用拡大でパート社員も企業型DCの対象に?〜加入資格と制度設計の注意点〜

messageImage 1786326917509

「社会保険の対象が広がると、パート社員も厚生年金に加入します。そうなれば、企業型DCにも加入してもらう必要があるのでしょうか」

今後、経営者や人事担当者から、こうした質問を受ける機会が増えそうです。

結論からお伝えすると、企業型DCを導入している事業所で働く厚生年金加入者は、原則として企業型DCの加入対象です。そのため、パート社員や短時間勤務の社員も、厚生年金に加入すれば企業型DCの対象になり得ます。

ただし、厚生年金に加入した人が、必ず全員企業型DCに加入するとは限りません。会社の企業型DC規約に合理的な加入条件が定められている場合は、加入する社員の範囲を分けられるためです。

大切なのは、「正社員かパートか」という呼び方だけで決めないことです。企業型DC規約だけでなく、就業規則、給与制度、退職金制度まで確認し、なぜ対象にするのか、あるいは対象外にするのかを会社として説明できるようにする必要があります。


社会保険の適用拡大で厚生年金に加入するパート社員が増える

社会保険では、正社員の所定労働時間と所定労働日数の4分の3以上働く人は、企業規模にかかわらず原則として加入対象です。

さらに、現在は、4分の3未満で働くパート・アルバイトにも、社会保険の対象が段階的に広がっています。

厚生労働省の案内によると、現在は主に次の条件を満たす人が対象です。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 学生ではない
  • 2か月を超えて働く見込みがある
  • 所定内賃金が月額8万8,000円以上

このうち月額8万8,000円以上という賃金の条件は、2026年10月に撤廃予定です。

対象となる企業も順次広がります。2027年10月から従業員36~50人、2029年10月から21~35人、2032年10月から11~20人の企業へ拡大し、2035年10月には企業規模による条件がなくなる予定です。

つまり今後は、企業規模にかかわらず、週20時間以上働く短時間勤務の社員が社会保険に加入する方向へ進みます。

企業が確認すべきなのは、社会保険料の増加だけではありません。企業型DCを導入している会社では、新たに厚生年金へ加入する社員が、企業型DCでも加入対象になるかを併せて確認する必要があります。


厚生年金に加入すると、原則、企業型DCの対象になる

企業型DCは、会社が掛金を出し、社員が自分で運用する企業年金です。加入対象となるのは、企業型DCを実施している事業所で働く厚生年金加入者です。

したがって、規約に加入者を分ける条件がなければ、パート社員も厚生年金に加入した時点で、企業型DCの加入者になるのが基本です。

確認するポイントは、次の3つです。

  • その社員が厚生年金に加入しているか
  • 企業型DCを実施している事業所で働いているか
  • 企業型DC規約にどのような加入条件があるか

反対に、まだ厚生年金の対象になっていない短時間勤務の社員は、企業型DCの基本的な加入対象には入りません。

このように、社会保険の適用拡大は、企業型DCに加入する社員の範囲にもつながる問題です。


企業型DC規約で加入条件を設定できる

企業型DCでは、規約に一定の条件を定め、加入する社員の範囲を分けられる場合があります。

厚生労働省の法令解釈では、主に次のような条件が示されています。

  • 職種
  • 勤続期間
  • 年齢
  • 本人が加入を希望するかどうか

ただし、会社が都合のよい基準で自由に対象者を選べるわけではありません。

たとえば職種で分ける場合は、研究職、営業職、事務職などの区分が就業規則等に書かれており、給与や退職金などの条件も別に定められていることが前提になります。

勤続期間で分ける場合も、「入社から一定期間は会社の負担を避けたい」という理由だけでは不十分です。企業型DCに加入しない期間について、別の退職金や給与への上乗せなど、代わりとなる仕組みが必要になるのが原則です。

希望者だけが企業型DCに加入する制度も設計できます。ただし、加入しない社員には別の退職金制度などを用意することが基本です。また、一度企業型DCを選んだ後、本人の希望だけで自由にやめて、元の退職金制度へ戻ることはできません。

加入する社員の範囲を分けるときは、対象外となる社員に不当な差が生じないかも確認する必要があります。


「パート社員だから対象外」は通用するのか

では、規約に「正社員のみ加入」と書けば、パート社員を対象外にできるのでしょうか。

この判断も、社員の呼び方だけではできません。

厚生労働省の企業型DCに関するQ&Aでは、パート職員などを対象外にできるかは、給与規程、就業規則、雇用形態、退職金制度の有無などを見て、労働条件がどの程度違うのかを個別に判断する必要があるとしています。

つまり、次のような理由だけで、自動的に対象外にできるとは限りません。

  • 正社員ではないから
  • 勤務時間が短いから
  • これまで退職金を出してこなかったから

一方、正社員とパート社員で仕事の内容や責任、給与の決め方、雇用期間、退職金制度などが明確に異なり、その違いが就業規則等にも書かれている場合は、加入範囲を分けられる可能性があります。

それでも、対象外の社員に別の退職金が必要か、正社員との待遇差を合理的に説明できるかは確認が必要です。別の退職金を用意しなくてもよいケースは例外的とされているため、会社ごとの制度に沿った判断が欠かせません。

2026年10月1日からは、改正された「同一労働同一賃金ガイドライン」も適用されます。これだけで企業型DCの加入可否が決まるわけではありませんが、正社員とパート社員の待遇差を会社が説明できる状態にしておく重要性は、さらに高まります。


掛金をどのように設定するか

パート社員を企業型DCの加入者にすることと、正社員と同じ掛金額にすることは別の問題です。

掛金を全社員一律の金額にすれば、制度は分かりやすくなります。一方、給与に一定の割合を掛けて計算する方法にすれば、勤務時間や給与の違いを掛金に反映できます。

また、給与や退職金などの条件が異なり、加入者の区分に合理的な理由がある場合は、区分ごとに掛金額を変えられる余地もあります。ただし、会社と社員が合意すれば、どのような差でも認められるわけではありません。

重要なのは、掛金を低くできるかではなく、なぜその金額になるのかを給与制度や退職金制度との関係から説明できることです。


社会保険の適用拡大前に5つの確認を

企業型DCを導入済みの会社は、社会保険の対象が広がる前に、少なくとも次の5点を確認しておきたいところです。

1.新たに厚生年金へ加入する社員を確認する

現在の勤務時間だけでなく、契約更新や勤務時間の変更によって、今後対象になる社員を洗い出します。

2.企業型DC規約の加入条件を確認する

承認を受けている正式な規約を確認します。厚生年金加入者全員が対象なのか、職種、勤続期間、年齢、本人の希望による条件があるのかを整理します。

3.就業規則・給与規程・退職金規程と照らし合わせる

企業型DC規約だけを見直しても、他の社内規程と内容が食い違っていれば、正しく運営できません。どの社員に、どの退職金制度が適用されているかを一覧にすると確認しやすくなります。

4.会社の負担を試算する

社会保険料だけでなく、企業型DCの掛金、運営費用、社員への説明に必要な時間や費用も含めて考えます。将来も続けられる金額かどうかが大切です。

5.社員への説明を準備する

社員によっては、社会保険と企業型DCへの加入が同じ時期に始まります。

「企業型DCとはどんな制度なのか」

「手取りはどう変わるのか」

「掛金は誰が出すのか」

「いつ受け取れるのか」

「商品は自分で選ぶのか」

といった疑問が出るでしょう。

社会保険と企業型DCは別の制度ですが、社員には毎月の手取りや将来受け取るお金への影響をまとめて説明した方が伝わりやすくなります。


パート社員を含めた制度設計は人材の定着にもつながる

パート・短時間勤務の社員の中には、長く勤めて現場を支えている人や、正社員と近い仕事を担っている人もいます。家庭の事情などで、勤務時間だけを短くしている人もいるでしょう。

こうした社員を企業型DCの対象にすれば、会社の負担が増える面があります。一方で、雇用形態にかかわらず、長く働く社員の将来を支えるという会社の姿勢を伝える機会にもなります。

もちろん、全ての会社が同じ加入範囲や掛金にする必要はありません。企業型DC以外の退職金制度が合う会社もあります。

経営者には、会社負担、続けやすさ、採用・定着、既存の退職金制度との関係を説明する。社員には、毎月の手取り、掛金、将来受け取るお金、家計への影響を説明する。経営者には経営の言葉で、社員には生活の言葉で伝えることが大切です。


社会保険の適用拡大を退職金制度の点検機会に

厚生年金に加入したパート社員は、企業型DCの基本的な加入対象になります。ただし、規約に合理的な条件が定められていれば、加入する社員の範囲を分けられる場合があります。

その判断は、「パートだから対象外」という呼び方だけではできません。仕事の内容、就業規則、給与制度、退職金制度、対象外となる社員への別の退職給付まで確認する必要があります。

社会保険の適用拡大は、社会保険料だけの問題ではありません。これまで正社員を中心に考えてきた退職金制度を、現在の働き方に合わせて見直す機会でもあります。

ライフビジョナ総合研究所では、企業型DCを導入すること自体ではなく、会社の給与・退職金制度や社員構成を整理し、会社が無理なく続けられ、社員にもわかりやすく説明できる制度を整えることを重視しています。企業型DCありきではなく、自社に合う退職金制度を考えるところから始めることが大切です。