国はなぜ企業型DCとiDeCoを拡充しているのですか?

20260722 LV

近年、国が企業型DCやiDeCoを拡充しているのは、公的年金を土台としながら、企業と個人が老後資産を形成する仕組みを広げるためです。

加入できる年齢を延ばす。拠出できる金額を増やす。中小企業が企業型DCを実施しやすくする。投資教育を充実させる。企業年金の運営状況を見えるようにする。

厚生労働省が公表している制度改正や関連資料を見ると、こうした政策が矢継ぎ早に実行されているのが理解できます。

だからと言って、全ての会社が企業型DCを導入しなければならないということではありません。しかし、これから退職金制度を導入・見直すのであれば、企業型DCやiDeCoとの関係を抜きに考えることは難しくなっていると言えるでしょう。


厚労省の公開情報からDCを重視する方向性が見えてくる

厚生労働省は、企業型DCやiDeCoの制度概要、加入状況、制度改正、投資教育、企業年金の情報開示などを、公式サイトで公表しています。

まず確認しておきたいのは、国が確定給付企業年金(DB)や退職一時金を否定し、全ての退職金制度を企業型DCへ置き換えようとしているわけではないという点です。

厚生労働省の「私的年金制度の概要」では、公的年金に上乗せする制度として、企業型DC、iDeCo、DB、国民年金基金などが紹介されています。企業型DCとiDeCoは、その中に位置づけられる選択肢です。

一方で、近年の制度改正を見ると、企業型DCとiDeCoを通じた老後資産形成に、政策上の強い力点が置かれていることも確かです。


企業型DCとiDeCoは既に無視できない規模になっている

企業型DCの加入者数は、制度の創設以降、長期的に増加しています。

厚労省が掲載している「確定拠出年金統計資料」によると、企業型DCの加入者数は2025年3月末時点で約862万人です。

iDeCoについては、iDeCo公式サイトが毎月の加入状況を公表しています。

「iDeCoの加入等の概況(2026年3月)」によると、2026年3月末時点の現存加入者数は約392.8万人です。最新の加入者数についても、iDeCo公式サイトの統計情報から継続的に確認できます。

なお、企業型DCに加入しながらiDeCoを利用している人もいるため、両者の加入者数を単純に合算することはできません。

それでも、企業型DCとiDeCoが、一部の人だけが利用する制度ではなく、老後資産形成の仕組みとして広がっていることは明らかです。

国が制度を更に拡充する背景には、企業型DCをより多くの人が、より長期間活用できる制度にしようという考えがあります。


加入可能年齢と拠出限度額の引き上げは、国の意思を示している

国の方針を最も明確に示しているのが、2025年の法改正に基づく一連の制度見直しです。

厚労省の「2025年の制度改正」では、主に次の改正が示されています。

2026年12月から、一定の要件を満たす人について、iDeCoの加入可能年齢が70歳未満まで広がります。働き方に関わらず、より長く老後資産形成を続けられるようにする改正です。

企業型DC、iDeCo、国民年金基金の拠出限度額も引き上げられます。

さらに、2026年4月には、企業型DCのマッチング拠出について、加入者掛金が事業主掛金を超えてはならないという制限が撤廃されました。事業主掛金の金額に左右されず、加入者が拠出限度額の枠を活用しやすくするためです。

制度を縮小するのであれば、加入できる年齢を延ばし、拠出できる金額を増やす必要はありません。

国は明らかに、企業型DCやiDeCoを利用して、老後資産を形成できる期間と金額を広げようとしています。

ただし、これは公的年金の役割を小さくするという意味ではありません。

厚労省の「iDeCoの概要」でも、iDeCoは公的年金とは別に給付を受けられる私的年金であり、公的年金と組み合わせて老後生活を支える制度と説明されています。

つまり、国が示しているのは、公的年金を土台とし、その上に企業年金や個人年金を積み上げる考え方です。


国は中小企業にもDCを広げようとしている

企業型DCの拡充は、個人の加入条件や拠出限度額を見直すだけではありません。

2025年改正では、中小企業が企業型DCを実施しやすくするため、手続きの簡素化も行われました。

中小企業向けに設けられていた簡易型DCの手続きの一部を通常の企業型DCにも適用し、中小事業主を含むすべての事業主が取り組みやすい仕組みに改めるものでした。

また、企業年金を実施していない一定規模以下の企業には、iDeCo+(イデコプラス)という選択肢があります。

iDeCo+は、iDeCoに加入している従業員の掛金に、会社が事業主掛金を上乗せする制度です。企業型DCを設ける以外にも、会社が従業員の老後資産形成を支援できる方法が用意されています。

iDeCo+の仕組みは、厚生労働省の「私的年金制度の概要」やiDeCo公式サイトで確認できます。

企業型DCを導入するのか、iDeCo+を利用するのか、既存の退職金制度を維持するのか。

国は、中小企業が従業員の老後を支援するための選択肢を広げています。


DCの拡充は単に掛金を増やすだけの政策ではない

企業型DCやiDeCoについては、「税制優遇を用意し、個人に運用責任を負わせる制度ではないか」という見方もあります。

確かに、企業型DCでは、加入者が選択した商品の運用結果によって将来の受取額が変わります。投資信託を選択した場合には、元本割れの可能性もあります。

そのため、加入対象や拠出限度額を広げるだけでは十分ではありません。

厚生労働省の「確定拠出年金制度」のページでは、制度改正だけでなく、投資教育に関する資料や事業主向けの情報も公開されています。

企業型DCは、会社が掛金を拠出すれば終わる制度ではありません。

従業員が制度の仕組みを理解し、商品の特徴や価格変動リスクを踏まえて選択できるよう、加入時と加入後に情報を提供する必要があります。

また、若い時期の商品選択だけでなく、受給が近づいた時期の資産配分や、退職後の取り崩し方について考える機会も必要です。

国が企業型DCを拡充するのであれば、制度の利用者を増やすだけでなく、投資教育の実効性を高めることも不可欠です。


企業年金の「見える化」により、導入後の運営も問われる

国は企業年金の普及だけでなく、運営の質も高めようとしています。

厚労省の「企業年金の加入者のための運用等の見える化」では、企業年金に関する情報を公開し、他社との比較や分析ができる環境を整える方針が示されています。

企業型DCについては、制度情報、加入者数、掛金、運用商品、運用実績などを、一定の基準に基づいて開示する方向で検討が進められています。

これは、企業年金が「導入しているかどうか」だけで評価される時代ではなくなることを意味します。

どのような商品ラインナップを用意しているのか。

従業員に必要な情報を伝えているのか。

運用商品の評価や見直しを行っているのか。

退職者に必要な手続きを案内しているのか。

国は企業型DCの普及を進める一方で、導入企業に対して、加入者の利益を踏まえた運営を求めています。

これまで何度も書いてきましたが、企業型DCは、導入したら終わりではありません。制度設計、従業員への説明、投資教育、運用商品の確認、退職時の案内まで含めて考える必要があります。


全ての人の老後資産が増えるとは限らない

国が企業型DCやiDeCoを拡充していることは、制度改正の内容から明確に読み取れます。

しかし、制度の枠を広げれば、すべての人の老後不安が解消されるわけではありません。

拠出限度額が引き上げられても、家計に余裕がなければ、個人が掛金を増やすことはできません。

所得控除による税制上の効果も、所得や納税額によって異なります。

企業型DCでも、会社が設定する掛金水準によって、従業員が形成できる資産には差が生まれます。

また、運用リスクは加入者が負います。長期・積立・分散を行っても、運用結果が必ずプラスになるわけではありません。

そのため、「国が推進しているから導入する」という判断では不十分です。

制度を導入する目的、会社が継続できる掛金水準、既存の退職金制度との関係、社員構成、導入後の教育体制まで確認する必要があります。


これからの退職金制度は、企業型DCとiDeCo抜きには考えられない

国は、公的年金を土台としながら、企業型DCやiDeCoを活用した老後資産形成を広げようとしています。

加入可能年齢の引き上げ、拠出限度額の拡大、マッチング拠出の制限撤廃、中小企業向け手続きの簡素化、投資教育、企業年金の見える化。

これらの施策は、企業と個人が長期的に老後資産を形成できる環境を整えるという方向を向いています。

もちろん、全ての会社が企業型DCへ一本化すべきということではありません。DB、退職一時金、中小企業退職金共済などが適する会社もあります。

それでも、これから退職金制度を新設・見直しするのであれば、企業型DC、iDeCo、iDeCo+を自社の制度とどう組み合わせるかは、避けて通れない検討事項になっています。

国の方針にそのまま追随するのではなく、自社の社員構成、既存制度、経営課題、継続できる負担水準を踏まえて判断することが重要です。