企業型確定拠出年金は、会社にとってどんなメリット・デメリットがありますか?

771707db6de5febc7194d6508ee09fe9

メリットは大きい。ただし「入れ方」と「伝え方」で成果は変わる

結論から言えば、企業型確定拠出年金は中小企業にとって有効な制度です。

ただし、メリットだけを見て導入すると、社員に価値が伝わらないことがあります。

大切なのは、自社に合う設計と、社員に届く伝え方です。


企業型確定拠出年金は「退職金制度」であり「人材戦略」でもある

「企業型確定拠出年金は、会社にとってどんなメリットがありますか?」

「逆に、デメリットは何ですか?」

企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入を検討されている経営者の方から、よくいただく質問です。

企業型DCというと、「税制メリットのある年金制度」「老後資金づくりの制度」という説明をされることが多いです。もちろん、それは間違いではありません。会社が掛金を拠出し、社員が自分で運用商品を選び、その運用結果に応じて将来受け取る資産が変わる制度です。

ただし、経営者の立場で見ると、企業型DCの価値は制度面だけではありません。

中小企業にとって、人材の採用と定着はますます大きな課題になっています。給与を上げたい。しかし、毎年の固定費を大きく増やすのは簡単ではない。退職金制度も整えたい。しかし、将来の退職金負担がどのくらい膨らむのか見えにくい。

このような会社にとって、企業型DCは、単なる年金制度ではなく、社員の将来を支援するための人材戦略にもなります。会社が社員に対して、「今の給与だけでなく、将来の安心も一緒に考えています」という姿勢を示す仕組みでもあるのです。


社員は制度そのものより「会社の姿勢」を見ている

社員は、制度を細かく見ているわけではありません。

「この会社は自分たちのことを考えてくれているのか」

「長く働いた先に、どんな安心があるのか」

という感覚で受け止めています。

企業型DCは、うまく設計すれば、この感覚に届く制度です。一方で、うまく伝えられなければ、社員には価値が届きません。

「(やりたくないのに)投資をさせられるのですか」

「元本割れするならやりたくないです」

「60歳前に受け取れないなら、自分には関係ありません」

こうした声が出ることもあります。社員がそう感じるのは、決しておかしなことではありません。

投資や年金制度に詳しくない方にとって、企業型DCは最初からわかりやすい制度ではないからです。

だからこそ、企業型DCの導入では、制度設計と同じくらい「伝え方」が重要になります。


メリット1:福利厚生を充実させられる

会社にとっての1つ目のメリットは、福利厚生の充実です。

企業型DCを導入することで、社員の将来の資産形成を会社として支援することができます。退職金制度がない会社にとっては、退職金制度を整えるきっかけになります。すでに退職金制度がある会社にとっても、既存制度を見直す選択肢になります。

大切なのは、見栄えのよい制度を入れることではありません。社員にとって意味のある制度を、会社の実情に合わせて整えることです。


メリット2:採用や定着の材料になる

2つ目のメリットは、採用や定着への効果です。

求職者は、給与だけで会社を見ているわけではありません。福利厚生、働き続けた先の安心感、会社の姿勢も見ています。これからの人材採用では、「この会社で長く働く意味があるか」がますます問われます。

もちろん、企業型DCを導入しただけで採用が一気に改善するわけではありません。そこまで魔法のような制度ではありません。

しかし、「社員の将来を支援する制度がある」ということは、会社の魅力を伝える一つの材料になります。給与だけで大企業と競争しにくい中小企業にとって、社員への向き合い方を制度として示せることは大きな意味があります。


メリット3:退職金負担を見える化しやすい

3つ目のメリットは、退職金負担を見える化しやすいことです。

従来型の退職金制度では、将来いくら支払う必要があるのかが見えにくい場合があります。

企業型DCでは、あらかじめ決めた掛金を拠出していくため、会社としての費用を管理しやすくなります。将来の退職金債務を膨らませにくいという点は、経営上の安心材料になります。

退職金制度は、社員への約束です。

だからこそ、気持ちだけで設計するのではなく、会社が長く続けられる仕組みにしておくことが大切です。


メリット4:税制上のメリットがある

4つ目のメリットは、税制上のメリットです。

企業型年金規約に基づく事業主掛金は、事業主の損金または必要経費に算入されます。単なる給与とは異なる形で、社員の将来支援に資金を使える点は、企業型DCの大きな特徴です。

ただし、税制メリットだけを前面に出しすぎると、社員には伝わりにくくなります。経営者から見れば「税制メリットがある制度」は魅力的です。しかし、社員から見れば「自分にとって何が良いのか」がわからなければ、納得にはつながりません。

企業型DCは、会社の税務上のメリットだけで語る制度ではありません。社員の将来にどう役立つのかまで伝えて初めて、制度の価値が届きます。


メリット5:社員の金融教育につながる

5つ目のメリットは、社員の金融教育のきっかけになることです。

企業型DCを導入すると、社員は自分の将来資金について考える機会を持つことになります。老後資金、資産形成、NISAやiDeCoとの違い、ライフプランを考える入り口にもなります。

また、企業型DCでは、事業主に投資教育が求められます。導入時だけでなく、導入後も継続的に学ぶ機会を用意することが重要です。

一度の説明会ですべてを理解してもらうのは難しいからこそ、社員が少しずつ制度を理解できる環境を整えていく必要があります。


企業型DCのデメリットも確認しておく

ここまでメリットを見てきましたが、企業型DCにはデメリットもあります。ここを曖昧にしたまま導入すると、後で社員の不安や不信感につながることがあります。

主なデメリットは、導入時の手間、毎月のコスト、社員への説明と投資教育、原則として60歳前には受け取れないこと、制度設計によって不公平感が出る可能性があることです。

企業型DCを導入するには、規約の整備、制度設計、運営管理機関の選定、社員説明、社内手続きなど、一定の準備が必要です。また、会社が掛金を拠出する場合は、その分の費用が発生します。制度運営に関する手数料なども確認しなければなりません。

さらに、企業型DCは社員自身が運用商品を選ぶ制度です。運用結果によって、将来の受取額が変わります。そのため、社員に制度の仕組みやリスクを理解してもらう必要があります。

また、企業型DCは老後資金づくりを目的とした制度のため、原則として60歳前には受け取れません。通算加入者等期間によっては、60歳以降でも受給開始時期が後ろ倒しになる場合があります。

これは老後資金を確実に準備するという意味ではメリットでもありますが、社員によっては「今使えないなら不便」と感じることがあります。

だからこそ、デメリットを隠して導入するのではなく、「老後資金を作るための制度だからこそ、途中で簡単に受け取れない」という制度の目的まで伝えることが大切です。


制度を入れたのに、社員に伝わらなかった会社

ある中小企業の社長が、社員の将来を考えて企業型DCを導入しました。

社長としては、良い制度を入れたつもりでした。

「社員のために退職金制度を整えたい」

「将来の安心を少しでも作ってあげたい」

「大企業のような福利厚生は難しくても、できることから始めたい」

そう考えて、忙しい中で制度導入を進めました。

ところが、社員説明会の後、社内の反応は思っていたものと違いました。

「結局、投資をしないといけないんですか」

「損をしたら誰が責任を取ってくれるんですか」

「60歳前に受け取れないなら、自分にはメリットがない気がします」

社員のために導入したはずなのに、社員からは感謝よりも不安の声が出てきた。これは珍しい話ではありません。

制度の内容が悪かったのではありません。社員の理解が足りなかっただけでもありません。問題は、会社が伝えたかった思いと、社員が受け取った印象にズレがあったことです。

会社は「将来の安心を支援したい」と考えていた。

社員は「よくわからない投資制度が始まった」と感じていた。

この差は、とても大きいです。

企業型DCは、資料を配れば伝わる制度ではありません。専門用語を並べれば理解される制度でもありません。

なぜ会社がこの制度を導入するのか。社員にとってどんなメリットがあるのか。どんなデメリットや注意点があるのか。不安な人は、どう考えればよいのか。会社は導入後も、どのように学ぶ機会を用意するのか。

こうしたことを、社員の目線で伝える必要があります。ここまで丁寧に設計し、伝えることができれば、企業型DCは単なる制度ではなくなります。社員にとっては、「会社が自分たちの将来を考えてくれている」と感じられるきっかけになります。


なぜ導入前のコンサルティングが重要なのか

企業型DCでは、会社が掛金を拠出する形を基本に、実務上は選択制の活用やマッチング拠出など、会社ごとに検討すべき設計があります。

どれが良いかは、会社によって違います。

社員の年齢構成、給与水準、既存の退職金制度、役員報酬、人件費の考え方、採用課題、今後の事業計画によって、適した制度設計は変わります。

ここを確認しないまま、

「企業型DCはメリットが多いらしい」

「節税になるらしい」

「他社も入れているらしい」

という理由だけで進めると、導入後にズレが出ます。

企業型DCは、制度を入れることが目的ではありません。

会社の退職金制度や福利厚生をどう考えるか。

社員の将来不安にどう向き合うか。

採用や定着において、どのような会社として見られたいか。

そこまで整理して初めて、自社に合った企業型DCの形が見えてきます。

なお、企業型DCは制度改正が行われることもあります。拠出限度額や手続き、マッチング拠出の取り扱いなどは、導入時点の最新の法令・制度要件を確認する必要があります。

だからこそ、導入前にはコンサルティングが重要です。

ライフビジョナ総合研究所では、単に制度を紹介するだけではなく、会社の状況を確認したうえで、どの設計が合うのか、どのように社員へ伝えるべきか、導入後の投資教育をどう行うべきかまで整理します。


メリットとデメリットを比べるだけでは不十分

企業型DCのメリットは、会社にとっても社員にとっても大きい制度です。

会社にとっては、福利厚生の充実、採用・定着への効果、退職金負担の見える化、税制上のメリット、金融教育の機会づくりにつながります。

一方で、導入手続き、コスト、社員説明、投資教育、60歳前に受け取れないことへの理解、不公平感が出ない制度設計など、注意すべきデメリットもあります。

つまり、企業型DCは「良い制度か、悪い制度か」ではありません。

自社に合う形で導入できるか。

社員に納得してもらえる形で伝えられるか。

導入後も継続的に学ぶ機会を作れるか。

ここが重要です。

「この会社は、今だけでなく、社員の将来も考えている」

そう伝わる制度にできるかどうか。企業型DCの導入判断で本当に問われるのは、そこなのかもしれません。


自社に合う形を、まずは整理してみることから

企業型DCには、さまざまなメリットがあります。しかし、自社に合う制度設計は、会社の状況を確認しなければ判断できません。

会社が掛金を拠出する形を基本にどう設計するのか。

選択制を活用するのか。

マッチング拠出をどう考えるのか。

既存の退職金制度との関係をどう整理するのか。

社員にどう説明すれば、不安ではなく納得につながるのか。

これらは、会社ごとに答えが異なります。

企業型DCは、制度を入れることが目的ではありません。

自社の退職金制度や福利厚生をどう考えるのか。

社員の将来不安に、会社としてどう向き合うのか。

そこを整理したうえで、導入するかどうかを判断することが大切です。

ライフビジョナ総合研究所では、中小企業の経営者・人事担当者の皆さまに向けて、企業型DCの導入に関するご相談をお受けしています。

「自社に企業型DCが合うのか知りたい」

「メリットだけでなく、デメリットも整理したい」

「社員にどう説明すればよいか相談したい」

「退職金制度や福利厚生全体を見直したい」

このようなお悩みがありましたら、まずは自社の状況を整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。