“古い退職金制度”では選ばれない 転職時代に企業型DCが“人材戦略”として見直される理由

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会社の寿命を伸ばすために、何が必要でしょうか。

商品力、営業力、資金力。

もちろん、どれも大切です。

けれど、最終的に会社を動かしていくのは“人”です。

どれだけ良い商品があっても、どれだけ立派な事業計画があっても、そこに集まる人材が育たず、定着しなければ、会社は長く成長し続けることができません。

だからこそ、これからの経営では人材戦略がますます重要になります。

採用が難しくなり、転職が当たり前になった今、会社は「人を採る」だけでなく、「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる環境を整える必要があります。実際、マイナビの転職動向調査でも、2024年の正社員転職率は7.2%と高水準を維持しているとされています。

その一つの選択肢が、退職金制度のアップデートです。

退職金制度というと、少し古い制度のように感じる方もいるかもしれません。

「今の若い人は、退職金なんて見ていないのではないか」

「転職が当たり前なら、退職金制度は採用に関係ないのではないか」

そう考える経営者の方もいると思います。

でも、本当にそうでしょうか。

むしろ転職が当たり前になったからこそ、退職金制度のあり方は見直されるべきです。

そして、その中で企業型DCは、単なる退職金制度ではなく、人材戦略の一部として考える価値があります。


給与だけでは選ばれにくい時代に

採用の話になると、どうしても給与に目が向きます。

もちろん、給与は重要です。

ここを軽く見ることはできません。

ただ、求職者が見ているのは給与だけではありません。

この会社で安心して働けるか。

長く働いた先に、どんな支援があるか。

自分の生活や将来を、会社がどこまで考えてくれているか。

こうした視点も、会社選びの中で以前より重みを増しているように思います。

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「福利厚生に関する労働者調査」では、現在の勤務先を選ぶときに福利厚生制度の内容を重視した割合について、若い世代ほど高い傾向が示されています。特に20代の正規雇用社員では、福利厚生を重視した人が半数程度にのぼります。

福利厚生は、もはや「あればうれしいおまけ」だけではありません。

若い世代にとっては、会社選びの判断材料の一つになっています。

もちろん、福利厚生といっても幅があります。

住宅手当、休暇制度、研修制度、健康支援、食事補助、そして退職金制度。

その中で企業型DCは、日々使える制度ではありません。

すぐに目に見える手当でもありません。

だからこそ、伝え方が重要になります。

「企業型DCがあります」とだけ書いても、求職者には十分伝わらないかもしれません。

でも、

「社員の老後資産形成を会社として支える制度があります」

「長く働く社員の将来まで考えた退職金制度を整えています」

と伝えれば、受け取り方は変わります。

制度そのものより、会社の姿勢が伝わるかどうか。

ここが大切です。


会社の“安定性”は売上や規模だけではない

新卒採用では、「安定している会社」を重視する学生が多いと言われます。

ただ、ここでいう安定性は、売上高や企業規模だけではありません。

福利厚生が整っていることや、安心して働ける環境があることも、会社の安定性として見られています。

金融経済教育推進機構(J-FLEC) は、学生が企業や職場を選ぶ際に「資産形成・金融リテラシー研修」への関心が高く、企業がこうした研修を積極的に導入している場合には学生の志望度が高まることが示されていると整理しています。また、企業による職域での金融経済教育は、新規採用やリテンションの強化に寄与し得るとされています。

これは、企業型DCと非常に相性の良い話です。

企業型DCは、制度だけでは伝わりにくい。

けれど、金融教育や制度説明とセットにすると、会社が社員の将来をどう支えているのかが伝わりやすくなります。

「うちは企業型DCを入れています」では弱い。

「社員の将来設計を支えるために、企業型DCと金融教育をセットで運用しています」なら、会社の姿勢が見えます。

ポテンシャルの高い人材ほど、目先の条件だけではなく、会社の将来性や社員への向き合い方を見ています。

給与だけで大企業と勝負するのが難しい中小企業にとって、「人を大切にしていることが伝わる制度設計」は、重要な人材戦略になります。


退職金制度そのものも重要

新卒採用では、退職金制度そのものよりも、福利厚生や安定性という大きな括りで見られることが多いと思います。

一方で、キャリア採用・転職市場では、退職金制度そのものがより具体的に見られています。

マイナビの「転職活動実態調査(2025年)」では、転職先を決める上で重視する福利厚生・制度として「退職金制度」が43.7%で最も高い結果となっています。また、今後のキャリアの充実につながると思う福利厚生・制度としても、退職金制度が高く挙げられています。

このデータを見ると、退職金制度は単なる老後の話ではありません。

キャリア採用の候補者にとっては、「この会社で働き続けた先に何があるか」を判断する材料にもなっています。

特に、一定の社会人経験を積んだ人ほど、給与だけでなく、制度の厚みや将来の安心を見ます。

転職は、単に目先の条件を変えるだけではありません。

次の会社でどれだけ安心して働けるか。

家族や将来設計も含めて、納得できる選択か。

そうした視点が入ってきます。

その意味で、企業型DCを含む退職金制度は、キャリア採用においても無視できない要素です。


“昔ながらの退職金制度”だけで、採用は戦えるのか

ここで少し踏み込んで考えたいことがあります。

退職金制度があること自体は、もちろん大切です。

ただ、退職金制度が「昔のまま」でいいかというと、そこは別の話です。

確定給付企業年金(DB)や、中小企業退職金共済(中退共)が悪い制度だと言いたいわけではありません。

どちらも、これまで多くの企業と従業員を支えてきた制度です。

給付の見通しや制度の安定性という意味で、今も重要な役割があります。

ただし、制度を見直さず、

「昔からあるから」

「とりあえず退職金制度として置いているから」

という理由だけで続けているなら、採用市場では弱くなっていく可能性があります。

求職者が見ているのは、制度の名前だけではありません。

その制度が、自分の将来にどうつながるのか。

転職やキャリア形成が当たり前になった時代に、自分にとって意味がある制度なのか。

そこを見ています。

退職金制度がある会社は、安心感を伝えられます。

でも、退職金制度を“昔のまま”にしている会社は、逆に古く見えるかもしれません。

問題は、DBや中退共そのものではありません。

問題は、働き方が変わっているのに、退職金制度の意味づけを変えていないことです。


転職時代にフィットした企業型DCの“ポータビリティ性”

今は、一つの会社で定年まで働き続けることだけを前提にしにくい時代です。

転職は、もはや特別なことではありません。

この時代に、退職金制度も「一社に長く勤める人だけの制度」として考えるだけでは、少しズレが出てきます。

企業型DCには、転職時にも年金資産を持ち運びやすいという特徴があります。

厚生労働省は、企業型DCの加入者が転職・退職等により資格を喪失した場合、6か月以内に個人別管理資産をiDeCo、他の企業型DC、DB、通算企業年金などへ移換する仕組みを説明しています。こうした年金資産の持ち運びは「ポータビリティ」と呼ばれます。

私自身も、この制度の意味を実感した一人です。

会社員を辞めた際、加入していた企業型DCの資産をiDeCoへ移換し、その後も老後資産形成を継続しています。

会社を辞めたら終わりではない。

働く場所が変わっても、それまで積み立ててきた資産を次につなげていける。

これは、実際に経験してみると、とても大きな安心感があります。

企業型DCは、単に在職中の退職金制度というだけではなく、キャリアが変わっても将来の資産形成を続けられる制度です。

私は、この点に企業型DCの大きな価値があると思っています。

もちろん、手続きの案内は必要です。

退職時に放置してよい制度ではありません。

ただ、会社を変えても、老後資産形成を途切れさせない。

働く場所が変わっても、将来に向けた積み立てを続けられる。

この“持ち運べる安心感”は、企業型DCを採用や定着の文脈で伝えるうえでも、もっと見直されてよい特徴です。

転職時代に退職金制度は古い。

そう考える方もいるかもしれません。

でも、企業型DCはむしろ逆です。

転職時代だからこそ、働く場所が変わっても老後資産形成を続けられる制度として、今の働き方に合っている面があります。


企業型DCは、人をコストではなく資産として見る制度

企業型DCを導入する意味は、単に退職金制度を整えることだけではありません。

会社が社員をどう見ているかが表れます。

人を短期的な労働力として見るのか。

それとも、長く活躍してほしい人材として見るのか。

会社が社員の老後資産形成を支える。

入社後も金融教育を行う。

制度を理解してもらい、使えるようにする。

こうした取り組みは、派手ではありません。

けれど、ポテンシャルの高い人材に対して、

「この会社は社員の将来まで考えている」

というメッセージになります。

企業型DCは、採用を一気に変える魔法の制度ではありません。

導入しただけで応募者が増えるわけではありません。

でも、採用・定着において重要なのは、制度の名前を並べることではありません。

その制度を通じて、会社が何を大切にしているかが伝わることです。


経営者の自己満足で終わらせないために

退職金制度や企業型DCは、経営者にとっては「社員のために整えた制度」かもしれません。

それ自体は、とても大切なことです。

ただ、社員や求職者に伝わっていなければ、制度は十分に機能しません。

会社としては良い制度を用意したつもり。

でも、社員は内容を知らない。

求職者にも伝わっていない。

人事担当者も、採用の場でうまく説明できていない。

この状態では、せっかくの制度が会社側の満足で終わってしまうおそれがあります。

企業型DCは、経営者が「入れてよかった」と思うためだけの制度ではありません。

社員が「この会社は自分たちの将来も考えてくれている」と感じられること。

求職者が「長く働くことを考えられる会社だ」と受け止められること。

そこまで届いて、初めて制度の意味が出てきます。

制度を整えることと、制度が伝わることは別です。

この差を埋めることが、これからの採用・定着では重要になっていくと思います。


おわりに

会社の寿命を伸ばすには、人材戦略が欠かせません。

採用し、育て、定着してもらう。

そのためには、給与だけではなく、働き方、福利厚生、将来の安心まで含めて、会社の姿勢を伝える必要があります。

企業型DCは、単なる退職金制度ではありません。

社員の老後資産形成を支え、転職時代にも持ち運べる安心感を提供し、会社が人に投資していることを伝える制度です。

もちろん、DBや中退共が不要だという話ではありません。

ただ、昔ながらの退職金制度を置いたまま、何も見直さない会社は、採用市場で見劣りしていくかもしれません。

これから問われるのは、退職金制度があるかどうかだけではありません。

その制度が、今の働き方に合っているか。

求職者や社員に、会社の姿勢として伝わっているか。

ポテンシャルの高い人材に、「この会社で長く働く意味がある」と感じてもらえるか。

御社は、退職金制度を昔のままにしておきますか。

それとも、人材戦略の一部としてアップデートしていきますか。

その違いが、これからの「選ばれる会社」の差になっていくのではないでしょうか。